■はじめに
現在、有待庵は破壊されたとの言説が拡散されているようですが、決して破壊されてはいないことを改めてお伝えします。有待庵の調査とは無関係の方が、憶測で、有待庵は破壊されたと一方的に決めつけた内容のツィートを昨年2019年6月にはじまり現在に至るまで8ヶ月以上にわたって全世界に発信されリツイートによって拡散されている異様な事態に、実際に有待庵保護にご尽力下さった皆様の事を思うと、筆者自身、心をえぐられるような思いです。このままでは、今後、文化財を守ることに及び腰になり、結果、消失させてしまいかねない。危惧します。どうか最後まで読んで頂ければと願います。
■破壊ではありません
「破壊」とは、例えばパワーショベルなどでぶっ壊すなどして跡形もなく壊され、二度と再生できない状態にされたことをいいます。開発前提で発掘された遺跡の遺構は記録保存されたあと破壊されてしまいます(これ自体問題ですが、日常的に行われているのが現実です)しかし、有待庵は違います。
有待庵は再度組み立てることを前提で、職人が部材を上部からひとつひとつ丁寧にほどいていきました。これを解体といい破壊ではありません。解体という言葉に誤解をもたれる方もいらっしゃるので「とりほどく」と称されることもあるそうです。
2019年6月3日、京都市による有待庵の解体現場には多くの報道機関が取材され、有待庵をとりほどく為に番付が貼られている状態をカメラやビデオにおさめられています。それは報道によって全国にも紹介され、現在もネット上で見ることが可能です。
「大久保利通の茶室、解体工事始まる 将来的に再建目指し部材保管」(京都新聞 2019/06/03)
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/7949
■緊急性の中での最善の判断
報道されているように、有待庵は、所有者のご意向で京都市が寄附譲渡をうけたかたちで市有化の道が開けました。京都市は専門家による調査を経て、当たり前ですが図面も書かれ、緊急性のある中で、最善を判断され、解体されています。それは公文書(京都市の回答書)によって明らかです。
また、建物をそのまま移動させることができたという言説もありますが、実際に調査をされた京都市によりそのような工法の余地はなかったようです。あとになってから、調査とは無関係の方が、一方的に「破壊」と決めつけたり、現実的に不可能だった工法を掲げて実際にご尽力下さった関係者を非難する発言に危惧します。
筆者は、第三者である建築の専門家にも、有待庵の解体についてお尋ねしたところ、京都市の措置は「破壊」ではないという見解を頂いています。例えば、重要文化財でも解体移築の際は、土壁は壊されるそうです。
■お願いですから辞めてください
「有待庵は破壊された」と決めつけ、京都市や市担当者の判断や措置を非難し、関係者を不当に貶める内容のツィートを見かけ、本当にかなしいです。ご尽力下さった関係者皆様のおかげで有待庵は失われずにすみました。有待庵保護にご尽力下さった方々が非難され侮辱を受ける理由はひとつもありません。
大久保利通旧邸跡(私有地)の「土地を市が買い上げて史蹟に指定するのが最上位の保存」、「発掘調査」をしていない、とした内容もありました。
個人の私有地を所有者の意思をないがしろにして税金を使って(何千万〜億)所有者から奪わないと文化財保護ではないのでしょうか?
文化財の保護は現地保存されることが望ましいことは誰でもわかりますが、今回はそれが不可能で、まさに目の前で消失しようとしている緊急の状況下でした。その中で、関係者は最善の策で保護して下さったのが事実です。これは当たり前のことではなく胸をはっていい文化財保護のスキームだったと筆者は考えます。
後述しますが、所有者の事情がある中で発掘調査強行はあまりに困難で非道であることも誰でもわかります。
つぶやきにすぎないから何を言ってもいいということにはなりません。揶揄や侮辱、恫喝に等しい投稿にいたっては、それに、いいねやリツィートされている方々も含めて本当に驚愕します。
どうか、京都市担当者や関係者を非難したり責めないで欲しい。最大限の努力をして下さいました。反論をされないからと自治体・公務員を叩くことは本当に辞めて欲しいのです。
有待庵を見つけた筆者自身、侮辱を受けている状況ですが、お願いですから、所有者の土地を奪え、発掘調査の為に我慢させろというような文化財保護を黄門様の印籠のように掲げて関係者を非難したり貶めるような酷いことに拡散で加担しないで欲しいです。それに、一方的に破壊として所有物の価値を貶める事は違法です。
有待庵の現存確認から一ヶ月も経たないうちに保護に至れた今回の文化財保護を、このスキームを大切にできればと願っています。最善を判断した市や担当者、尽力下さった関係者がこのような目に合うことで、今後、保護する対象物がでてきたときに、本当に消滅してしまう事態になりかねないのです。
■かけがえのない思い
そもそも、住宅解体現場で、有待庵の現存を確認できたこと自体が幸運なことであり、さらに、この後に及んでの所有者の善意で調査の時間を頂けました。保護の為に解体する時間を頂けました。そこで生じた金銭的、時間的負担は個人である所有者の負担になるにも関わらずです。所有者は日々生活を営む個人です。企業や法人ではないのです。
所有者は、新居で家族一緒に暮らすかけがえのない目標をもっておられました。実はお子様が御病気で入院されていたのです。その苦難の中で、有待庵保護の為にご協力下さったのです。関係者も一丸となって緊急性のある中で保護を実施されました。
しかし、結局新居には間に合わず、お子様は天に召されました。それなのに所有者は、有待庵保護のせいではない、工期は元々間に合わなかったんだからと筆者に仰って下さいました。私は涙をおさえきれず御礼を伝えるのが精一杯でした。私自身、両親を看取っており、肉親との死別の辛さは何年経とうがなくなることはありません。それでも親との死別は順番といえます。世の中で、子どもを先に亡くすというのはどれほどの苦しみでしょうか、私には想像もできません。所有者の尊いご厚意を忘れずに生きたいです。
■最後に繰り返します
有待庵は破壊されていません。多くの皆様のご尽力で失われずに保護されました。このことをどうかご理解頂きたく、文化都市 京都で、文化財保護を考えるきっかけにもなればと願い書かせて頂きました。
有待庵は所有者のご意向で京都市へ寄附譲渡をされ市有化の道が開けました。市有化により、子どもたちや修学旅行生も気軽に歴史的建造物に触れられます。歴史に興味をもつきっかけになってくれたら筆者としては望外の喜びです。
尚、有待庵は大久保利通の茶室として保護されました。御花畑から移築された件については保護の論点ではないことを付け加え、有待庵の保護を応援下さった皆様、保護にのりだそうとして下さった方々にも、この場を借りて感謝致します。最後まで読んで下さり、有難うございました。
付記
筆者は、令和元(2019)年5月9日(木)、大久保利通旧邸宅跡の住宅解体現場で、現存する大久保利通の茶室「有待庵」を確認できました。直後から信頼する有識者に連絡し、最善の模索を始めました。有待庵に関してA4一枚におさめた文書を作成し、翌10日(金)京都市文化財保護課に出向き、調査をして頂けるようお話させて頂きました。20(月)に調査に来て頂けることになり、所有者のご厚意で、当日調査の為に4時間頂けました。その後、京都市の英断で有待庵の保護が示され、所有者のご意向で京都市が寄附譲渡を受けたかたちで市有化の道が開けました。感謝しかありません。
有待庵が現存していたことは5月14日に報道されました。有待庵の保護に関しての問合せはすべて市文化財保護課へつないできました。筆者は現存確認できたことから初動では関係者と連絡をとる立場にありましたが、京都市が有待庵保護を表明されたことは5月20日に報道もされ、京都市当局が窓口であることは周知されました。
問合せされた方々と市文化財保護課との話し合い等は筆者にはまったく関係なく知るところではありません。ただ、私見ですが、上述したように、所有者は京都市へ寄附譲渡のご意向を示されていても、お子様が御病気の状況の中でしたので、時間がかかったこともあるのではないかと推察します。行政は正式に決まったことしか表明できない立場だと理解しています。
令和2年(2020年)2月7日 原田良子